Alyssa Gonzalez著「Nonmonogamy and Neurodiversity」
ノンモノガマスでニューロダイバースなトランス女性の著者が書いた、ノンモノガミーとニューロダイバーシティについての短い本。
とりあえず用語を説明しておくと、ノンモノガミーとはモノガミー(一夫一婦、あるいは性別に関係なく二人の人が排他的なパートナー関係を結ぶこと)ではない、という意味。三人以上が対等な関係で付き合うこともあれば、メインのパートナー以外と付き合ってもいい、あるいはメイン以外の特定のパートナーがいてもいいなど、実際のあり方はさまざまだけれど、合意のない浮気はこれに含まれない(ラグビーがサッカーの一種ではないように、モノガミーとノンモノガミーは別のルールが存在する別物であり、サッカーの試合中にボールを手で持ってもラグビーの試合にはならないのと同じ、と著者は説明)。
いっぽうニューロダイバーシティとは、自閉症やADHDなどさまざまな神経学的疾患と診断されてきた人たちのあいだで広まってきたもので、それらを「正常」に対する「異常」ではなく典型的な形式とは異なる非定型的なあり方と規定し、合理的配慮や本人の意思に基づく医療などの支援を受けつつありのまま社会に受け入れられるべきだとする考え方。
本書はノンモノガミーやポリアモリー(複数のパートナーとの関係を希望する性的指向)についてのシリーズ「More Than Two」の一冊で、100ページもない短さ。そのなかで著者が説明するのは、世間の常識とか暗黙の了解を苦手とするニューロダイバージェントな人たちにとってモノガミーの慣習やその複雑なルール(どこまでがセーフでどこからが浮気か、どういう行為が誘惑に当たるか、など)やそれが強要する生き方(カジュアルなデートから真剣なお付き合い、婚約、結婚、子どもを作り家を買う、etc.)は必ずしも自分にフィットしないと気づきやすく、したがってノンモノガミーはリアルな選択肢として現れがちであるということ。ニューロダイバージェントだからノンモノガミーになるのではなく、もともとモノガミーに向いていない人は神経学的に定型的な人にも非定型的な人にも一定数いるけれど、非定型的な人はそれに気づいて実際に行動に移しやすい、という話。非定型であることが自分らしく生きるためのアドバンテージになっている、と同時に社会に受け入れられずに苦しむきっかけにもなっている。
本の最後では、ニューロダイバージェントな人たちが他人の気持ちを思いやらない自分勝手な人だというステレオタイプを抱かれがちで、ドメスティック・バイオレンスの加害者となるイメージを持たれているが、実際には非定型であることはドメスティック・バイオレンスの被害者になりやすいとも指摘。ノンモノガミーやポリアモリーにおけるドメスティック・バイオレンスについての詳しい議論ではないものの、重要なトピックとして短い本のなかで取り上げられているのは良かった。