Akilah Cadet著「White Supremacy Is All Around: Notes from a Black Disabled Woman in a White World」

White Supremacy Is All Around

Akilah Cadet著「White Supremacy Is All Around: Notes from a Black Disabled Woman in a White World

保健学博士や公衆衛生学修士の資格を持ちダイバーシティ・コンサルタントとしてフォーブス誌の2021年の「次に来る1000人の起業家」にも選ばれた(多く選び過ぎでは)著者が、エリート社会のなかでは数少ない黒人女性として、また珍しい心臓病による障害を持つ立場として、経験してきたさまざまなことを綴る本。

著者の両親は外交官と国際弁護士という経済的・社会地位的には恵まれた境遇で、そのおかげもあり機会に恵まれ医学の方面でいくつかの学位を取得するも、それは同じくらい恵まれた環境で生まれ育ったエリートの白人たちの中で数少ない黒人女性として、そして障害者として孤独を経験することにも繋がる。Arline T. Geronimus著「Weathering: The Extraordinary Stress of Ordinary Life in an Unjust Society」に書かれていたウェザリングの罠がここにも。自分の専門知識は信用されず同じことを後から言った白人男性に手柄を独占されたり、自分の病状を正しく医者に説明しても一方的に無視されたりと、日常的に人種差別や性差別、障害者差別に晒される。その度に自分はこういう学位や地位のある人間なんだ、と説明してようやく相手に納得してもらえることもあるのだけど(生まれつきのエリートはいいなあ)、差別的な扱いに抵抗するあまり仕事を辞めさせられたり自分から辞めざるをえなくなることも少なくない様子。

「カデット」(士官候補生)という名字をもじったダイバーシティ・コンサル会社を設立したところ、ジョージ・フロイド氏殺害をきっかけに全国でブラック・ライヴズ・マター運動が活発になり、多くの企業や団体がダイバーシティの必要性を意識したため、著者は引く手あまたに。BLM特需で会社を大きくしフォーブス誌にも認められ、オークランドに自宅を購入するのだけれど、「自分は親の支援も受けず、夫もいないけれど、一人の力で家を買った」というのを読んで、いやいや直接購入費を出してもらっていなくても親のおかげは大きいでしょとは思った。とはいえ家を探して不動産屋に相談しても、黒人女性で障害者である著者を見てどうせこいつは家を買うお金なんてないと決めつけられたり、シングルなのにどうやって買うんだと問い詰められたりした経験から、自分の力で買ったぞと誇りたいのは分かる。

アクティビストであるわたしから見ると、ダイバーシティ・コンサルタントってのは運動が生み出してきた知恵や経験の蓄積を水で薄めて運動の後押しで生まれた需要に売り込んで個人的な儲けにしている、みたいなシニカルな感覚があって個人的に苦手だし、たまになにを間違えたのかわたしにダイバーシティ・コンサルタント的な仕事を依頼してくる人までいて困惑するのだけれど、この人は「白人至上主義はそこら中にある」という本書のタイトルからも分かるようにそれほど内容を薄めずに依頼主を怒らせるようなこともズバズバ言って、それで結局喧嘩別れとかもしてるみたいなので、そのあたりはマシなのかもとは思う。