Zakiyyah Iman Jackson著「Becoming Human: Matter and Meaning in an Antiblack World」
動物や労働する機械として「人間」のカテゴリから疎外されてきた黒人の地位を向上させるための戦略として「黒人の脱人間化」に抵抗し「黒人の人間化」を求める指向の限界を示しつつ、トニ・モリスン、オクタヴィア・バトラーらの小説やオードリー・ロードの闘病記などアフリカ系アメリカ人やその他の黒人たちの文学やアートの作品を通して、白人男性をその理想形として構築されてきた「人間」の脱特権化を目指す指向を紹介する2020年の本。
オクタヴィア・バトラーをはじめとする黒人作家たちによるスペキュレティヴ・フィクションのなかでは、異星人やアンドロイド、あるいは想像上の異種族などを通して、現実のものとは異なる多様な種族やジェンダー間の関係性が描かれる。これらは白人と黒人、男性と女性などのメタファーとして解釈されるのが普通だけれど、それらをあえていったんメタファーではなくそのまま人類以外の種族や男女以外のジェンダーの話と捉えることで、スペキュレーションと動物理論、ポストヒューマニズムを接続させ、白人や男性を特権化する論理および黒人や女性をそれに近づけようとする指向から離れた新たな読解を可能にするのは刺激的。もう一度取り上げられている文学を読み直したくなる。