Zach Norris著「Defund Fear: Safety Without Policing, Prisons, and Punishment」

Defund Fear

Zach Norris著「Defund Fear: Safety Without Policing, Prisons, and Punishment

オークランドの公民権・人権団体Ella Baker Centerの代表を務める著者による、警察や刑務所を必要としない社会を目指す運動に関する本。もともと2020年にハードカバーで「We Keep Us Safe: Building Secure, Just, and Inclusive Communities」として出版された本を、同年起きた警察予算削減運動(Defund the Police)を受けてペーパーバック化される際に改題されたもの。とはいえDefund運動が広まるまえから、警察や刑務所など取り締まりと処罰にかける予算を減らしてその分をコミュニティの安全につながるさまざまな社会的取り組みにまわす、という主張はされていて、本書ではその実例となる取り組みがいくつも紹介されている。

Defund運動に反対する民主・共和両党の政治家たちは、その運動をただ単に警察や刑務所の予算を削減する、あるいは撤廃するものと決めつけたうえで、そうすると地域の安全が犠牲になると主張するけれど、この本に紹介されているいくつかの取り組みは、犯罪の温床となっている社会的条件を改善することで、実際に犯罪を減らすことに成功している。著者は自分たち家族が外出中に自宅に空き巣に入られ、しかも犯人が子ども部屋の窓を割って侵入していたという経験を語り、犯罪によって自分の大切な人たちが傷つけられることへの恐怖が人間としてごく当たり前のものであることを認めつつ、コミュニティの安全を守るためには恐怖を元にした政策からケアを目的とした政策に予算を転換することが有効だと主張する。また、安全とはただ単に犯罪の被害を受けないことではなく、差別やや疎外や貧困から守られる必要があることも力説。

実際にDefund運動に関わっているわたしからすると、書かれていることの多くは当たり前すぎて新鮮味はないのだけれど、運動についてよく知らない人にとってはどういう主張なのか分かっていいかも。ただ障害者の疎外と包摂について語られる部分でファシリテイテッド・コミュニケーション(FC)という科学的には否定された手法を称賛して、FCを通して障害者女性が性的虐待の被害を訴えた、という話を紹介している点は、障害者に対する性的虐待は実際に数多く起きているだけに、もう少し慎重に調査して欲しかった。(参考まで、FCについて、仕事でそれをやらされた友人の話をここに書いています。)