Thomas Healy著「Soul City: Race, Equality, and the Lost Dream of an American Utopia」

Soul City

Thomas Healy著「Soul City: Race, Equality, and the Lost Dream of an American Utopia

公民権運動の中心的指導者の一人として知られるフロイド・マキシックが故郷のノースカロライナ州の田舎に建設しようとした新しい街、ソウルシティについての本。人種融和政策が行き詰まりキング牧師ら有力指導者の暗殺が相次ぎ、公民権運動の方向性をめぐって黒人コミュニティ白人リベラルたちのあいだで大きな議論が起きていた1960年代終盤。南部の田舎から北部の都市へ自由を求めて移住する黒人が増える中、その都市では暴動や白人の郊外への逃避により財政悪化とスラム化が進んでいた。マキシックはそれへの解決策として南部の農地(むかし黒人奴隷が働かされていた広大な土地)に黒人主導の街を建設する計画をぶち上げる。

かれが目指したのは、黒人だけの街ではなく、また白人主導で作られた既存の街に黒人を包括するのでもなく、黒人が主導し設計した、あらゆる人種が平等に暮らせる街。その実現のためにかれは公民権運動で培った人脈を頼ったり、連邦政府からの支援を得ようと、共和党に入りニクソン大統領のために選挙運動をするなどした。ニクソンは1968年の大統領選挙でジョンソン政権が成立させた公民権法への南部白人の反発をあからさまに利用する戦略を取って人種差別的だと批判されるも、司法や行政による人種融和政策より望ましい動きとして、黒人がビジネスを運営することで力をつけるブラック・キャピタリズムを支援していた。

そうしてニクソンやロムニー住宅都市開発長官(2012年大統領候補ミット・ロムニーの父親)や連邦政府や、はじめは黒人の移入を恐れて反発していた地元の支持を得たものの、ヴェトナム戦争による連邦財政の悪化や地元の新聞のアンチキャンペーン、より保守的な地元選出のジェシー・ヘルムズ上院議員やレーガン大統領の登場などにより、連邦政府は支援を打ち切り、ソウルシティは破綻。産業誘致のために整備した工場用地には、その後刑務所が建設され、黒人が自由に生きるために作られた街で、いまでは多くの黒人が不自由を経験している。

マキシックは公民権運動の代表的な団体の1つを運営していた人で、法廷闘争や議会への働きかけではなくシットイン運動やフリーダムライドなどの直接行動にいち早く取り組んだ活動家の一人。そんな人が共和党に入党しニクソンを応援したり出資を求めて企業経営者とのミーティングを繰り返すまでして必死に作ろうとした新しい街について、わたしも最近までほぼ知らなかったし、地元でもほとんど知っている人がいないという。タルサで100年前に起きた白人による暴動・黒人虐殺事件と同じく「なかったこと」にされて忘れ去られようとしている歴史の記録。