Seth Stephens-Davidowitz著「Don’t Trust Your Gut: Using Data Instead of Instinct to Make Better Choices」

Don't Trust Your Gut

Seth Stephens-Davidowitz著「Don’t Trust Your Gut: Using Data Instead of Instinct to Make Better Choices

著者の言うところの「データナードのためのセルフヘルプ本」。20年ほどまえマイケル・ルイスが書いた『マネーボール』及びその映画化作品では徹底したデータ分析を通して「本来の価値より低く評価されている選手」を見出し低予算で強いプロ野球チームを作りあげたオークランド・アスレチックスの物語が紹介され、それをきっかけにプロスポーツ界にデータ分析が広まったが、それが可能だったのはプロスポーツでは選手のプレー一つ一つが細かくデータとして記録されていたから。それから20年たち、スポーツだけでなくわたしたちの日常生活のあらゆる面についてスマホやオンラインサービスの利用を通して事細かにデータが残るようになった結果、「人生のマネーボール」が実現した。そういう本。

本書ではデートから結婚、育児、仕事、起業から「幸せ」まで、さまざまな分野で膨大なデータの分析を元にしたアドバイスを提示している。個別の話は細かく書かないけど、そりゃそうだろうという常識的な話もあれば意外な話もあり、まあなるほどと思わされる。外見にコンプレックスがあった著者がどうすればより良い印象を与えられるかとアプリで自分の画像をいじって100種類以上のパターンを生成し、それをマイクロワークプラットフォームを通してたくさんの人たちに評価してもらったうえで統計処理して「眼鏡を着けヒゲを生やすと良い」という結論を得たあたりはおもしろい。本人は眼鏡が似合わないと思っていたので意外だったとか。というか外見にコンプレックスを感じているのにそんなことやって生の反応のデータが集まるのに耐えたのすごい尊敬する。

ところで『マネーボール』が大反響を呼んで以降、アメリカのプロ野球界では他のチームもアスレチックスと同様にデータ分析を取り入れた結果、統計学的に非合理的な戦術が見直され、選手の価値がより正しく評価され「本当は価値が高いのに不当に低く評価されている選手」を安く雇うことができなくなったため、アスレチックスの優位はなくなった。「人生のマネーボール」でも同じように、より多くのひとたちが本書のアドバイスを実行して優位に立とうとしたら結局誰も優位に立てなくなるのでは、という気もするのだけれど。