Sasha Issenberg著「The Lie Detectives: In Search of a Playbook for Winning Elections in the Disinformation Age」

The Lie Detectives

Sasha Issenberg著「The Lie Detectives: In Search of a Playbook for Winning Elections in the Disinformation Age

選挙制度の信頼性や公衆衛生に関する事実、人種差別の歴史など重要なトピックについてデマや陰謀論に頼った扇動をするトランプ時代の共和党や、ソーシャルメディアにおけるフェイク情報の拡散などによってアメリカ国内の分断を深刻化させようとする外国勢力の介入に対抗して、リベラルや民主党の側の人たちがどのようにフェイク情報と戦ってきたか、どうすれば対抗できるか、紹介する本。

フェイクやデマへの対処で難しいのは、いくら事実に反するからといって直接反論してしまえばかえって「こういう議論があった」というかたちでフェイク情報が拡散されてしまい、より議論すべきことから論点が外れてしまうこと。しかしそのまま放置しておけば手を付けられないほど広まってしまうこともあり、どう対処すべきか悩ましいところ。プラットフォームに削除を要請しても時間がかかることが多いし、削除させたらさせたでまた「隠蔽された、あいつらにとって都合が悪い真実」としてさらに広められてしまう危険も。ソーシャルメディアを運営する企業も、たとえばKurt Wagner著「Battle for the Bird: Jack Dorsey, Elon Musk, and the $44 Billion Fight for Twitter’s Soul」にも書かれているようにイーロン・マスクが買収するまえのツイッターでは担当の人たちが言論の自由と暴力や迫害を巻き起こす発言の規制のバランスを取ろうとそれなりにがんばっていたわけだけど、トランプや(買収前の)マスクのように自分のアカウントが影響力を持っていることを前提に担当者の必死の努力をぶち壊そうとする人たちには無力。かといって法的に規制しようにも、政府機関が何がフェイクなのか判断して一方的に削除したり発言者を処罰したりする制度には問題が大きく、簡単な解決法はない。

2004年の大統領選挙ではジョン・ケリーが「かつてケリーと一緒に従軍した元軍人たち」を自称する偽物によるフェイク攻撃を大きな要因として落選し、続く2008年に民主党大統領候補となり「アメリカ生まれではない外国人でイスラム過激派」というデマで攻撃されたバラック・オバマは、ファクトチェックのサイトを立ち上げ小さなものから大きなものまでデマやフェイクに片っ端から反論する手法を取った。しかしいまではフェイク情報を拡散するのが個人のレベルで可能になり、いくら反撃してもキリがないばかりか、上に書いたとおり反論することでさらに拡散されてしまう状況に。そういうなか、リード・ホフマンらリベラル派の大富豪の支援を受け、データを活用して「どのデマに反論すべきか、どのように対抗すべきか」という研究が進み、民主党の選挙マシーンに組み込まれていく。

その具体的な内容は本書を参考に、としか言えないけど、フィリピン人ジャーナリストが書いたMaria Ressa著「How to Stand Up to a Dictator: The Fight for Our Future」にも書かれているように、ロシア・中国・インドなど外国情報機関によるフェイク情報を通した政治介入がアフリカやアジア、南米などでは以前から行われており、フェイク情報に対抗する手法にもそれらの国での経験が生かされている。てゆーか、アメリカだってフェイク情報を使ってそれらの国に介入しているはずで、「ロシアや中国などの工作に対抗する手法の経験」ってよーするにそれってアメリカによる工作の経験じゃないかという気もするんだけど、本書はそこには触れない。アンフェアだけど、まあ書かれている内容は興味深い。