Sarah Ditum著「Toxic: Women, Fame, and the Tabloid 2000s」
ブリトニー、リンジー、パリスらファーストネームだけでも通じる女性芸能人9人が1990年代終盤から2000年代にかけてメディアで活躍しそしてメディアに叩かれた女性芸能人たちを取り上げ、いま思えば女性差別的でレイプ・カルチャー的だったこの時代の芸能界やタブロイドメディアを振り返る本。オリジナルのイギリス版ではサブタイトルは「2000s」ではなく「Noughties」だけど、内容が違うかもしれないのでわたしが読んだアメリカ版にリンクした。
当時は商用インターネットの黎明期であり、芸能人のゴシップや盗撮画像を掲載するサイトがたくさん登場、とくに女性芸能人に対する視線は厳しかった。女性芸能人の外見やファッションをからかうだけでなく、わざと下のアングルからスカートの中を盗撮するような画像や、プライベートのセックス動画などが拡散され、彼女たちは追い詰められていく。またブリトニーとジャスティンのように芸能人カップルが別れた際、女性側が一方的に叩かれ仕事を失う一方男性側には影響がなかったり、未成年のアーリアをグルーミングして性虐待していたR.ケリーがその事実を楽曲でボースティングしながらなんのお咎めも受けなかったり、またしてもジャスティンとの絡みで一瞬にして長いキャリアを失い猥褻扱いされるようになったジャネットなど、当時のメディアでは今では考えられないような性差別的・レイプ・カルチャー的な態度が一般的だった。
そうした当時の文化を体現していたのがプロレス参戦やリアリティ番組で人気を得たドナルド・トランプであり、かれが見知らぬ女性に対する性暴力をボースティングしている発言の録音が暴露されても大統領に当選することができたのに象徴的。しかしトランプが大統領に当選した2016年にはゴシップサイトを多数運営していたGawker Mediaがピーター・ティールによる裁判攻勢によって倒産に追い込まれ、トランプが就任した2017年にはmetoo運動がソーシャルメディアで爆発的に広がり芸能界だけでなくあらゆる分野で女性に対する性暴力を行ってきた男性たちが多数告発されるようになる。同時に、2000年代のメディアによる女性芸能人の扱いに対しても批判的な目が向けられた。ブリトニーの自叙伝「The Woman In Me」やリンジーのキャリアについてかなりの分量を割いたJennifer Keishin Armstrong著「So Fetch: The Making of Mean Girls (and Why We’Re Still So Obsessed with it)」もそうした2000年代芸能メディアへの批判の一環として見ることができる。
本書を読んで、性差別や性暴力についての世間の態度はここ10年ほどで本当に大きく変わってきたことを再認識するとともに、ああ確かに当時のあれ、ひどかったなあ、と思い出した。