Roland S. Martin著「White Fear: How the Browning of America Is Making White Folks Lose Their Minds」

White Fear

Roland S. Martin著「White Fear: How the Browning of America Is Making White Folks Lose Their Minds

南北戦争後のリコンストラクション期から公民権運動の時代、そしてオバマ政権の8年間など、黒人の権利が向上するたびに白人たちのあいだで湧き上がる被害者意識と恐怖感情についての本。著者は黒人男性ジャーナリストで、今後近いうちにアメリカにおける白人の人口が全体の半数を切るとされるなか、白人によるバックラッシュがさらに深刻化することを警告し、いますぐそれに向き合うよう訴える。

本書は歴史や政治の流れや現在の課題についての記述は要点を抑えているものの、160ページしかない短い本なのでそれほど深みはない。入門編としてはいいかも(表紙に掲載してあるコーネル・ウエストせんせーの推薦文は言い過ぎ)。ただ、なかでも重要だと思った指摘が二点あり、まず一つ目はドナルド・トランプが大統領に当選した際に言われた「両海岸のリベラルエリートに見放された中西部の労働者階級の反論」というメディアの論調が実際にトランプに投票した人たちの階層や収入、業種などに基づいた分析ではなく「白人」の言い換えとして使われており、そこに表出されている「白人たちの被害者意識と恐怖感情」が隠されている、というもの。

二つ目の指摘は、オバマ大統領が白人の恐怖感情を刺激しないため、常に未来志向の理想的なアメリカを語ろうとしたということ。黒人のハーヴァード大学教授が高級住宅街にある自宅に入ろうとしたところ強盗と間違われて逮捕された事件など、大統領として人種差別について公的な声明を出さざるをえないような状況に置かれるたび、オバマに対する白人からの支持率は下がったが、あれだけオバマが注意深く人種対立の象徴とされることを避けようとしたにも関わらずティーパーティー運動やトランプの台頭を許してしまったことは、白人の被害者意識や恐怖感情を避けて通ることは不可能であり、正面からそれに立ち向かう必要があるのではないか、と著者。

いずれも、アメリカ社会の主流が目の前にある「白人の人種的パニック」に対処せずにやり過ごそうとして失敗してきたことを指摘するもので、著者はとくに白人の読者に対してほかの白人たちのパニックに立ち向かうよう訴える。トランプは白人の被害者意識や恐怖感情の結果であって原因ではなく、仮にトランプが政治の現場から退場したとしても––いまの本人にところそのつもりは一切なく、まだアメリカの傷を引っ掻き回すようだけど––それで問題解決にはならない。