Reid Blackman著「Ethical Machines: Your Concise Guide to Totally Unbiased, Transparent, and Respectful AI」

Ethical Machines

Reid Blackman著「Ethical Machines: Your Concise Guide to Totally Unbiased, Transparent, and Respectful AI

哲学の博士号を持つ著者による、人工知能(AI)の倫理的な利用についての本。人工知能の倫理的問題点については近年多数の本が出ていて、これまでにもKate Crawford著「Atlas of AI: Power, Politics, and the Planetary Costs of Artificial Intelligence」やRuha Benjamin著「Race After Technology: Abolitionist Tools for the New Jim Code」などから学んできたけれども、学問的あるいは政治的な内容であるそれらと異なり本書は、AIを業務に採用する企業がどのようにして信用を失うリスクを避けるか、という観点から書かれたビジネス書。

普段ビジネス書はあまり読まないのだけれど、大学で倫理学を教えていたこともあるだけあって著者による問題の切り分けやまとめは鮮やかで明快。バイアス、透明性、説明(不)可能性、プライバシーなどそれぞれの問題がどういう理由によって生じるのか、どのように解消するのか、そしてそれによるトレードオフまで分かりやすく説明している。

いまやAIを利用するのはIT部門だけでなく、人事や広報などあらゆる部署で自前もしくはベンダーから購入したAIサービスが導入されているなか、IT部門だけでなく企業全体としてのAI倫理規範とそれを監視するAI倫理審議委員会が必要だと著者は主張。倫理問題についての正解を教えるためではなく倫理的問題をいち早く見つけ出しさまざまな視点を提示する専門家としてそうした委員会に倫理学者を加えるべきだ、というのは(著者が同業者に利益誘導しているという面もあるけど)だいたい納得。ただ、倫理学者が企業や政府の組織のなかで倫理的なあり方を訴えるのではなく倫理的に問題がありそうな行為を「倫理的に」行う手法を提示するテクノクラートと化してしまっているのはどうなのか、的なことをわたし昔、生命倫理のジャーナルに書いたような記憶がある。

問題の切り分けや説明はすごくいいと思ったのだけれど、ビジネス書なだけに政府によるAI利用や、AI利用の法的規制については何も書かれていない。企業にAI倫理についてのコンサルして稼いでいる著者の飯の種にはならないかもだけど、できたらそれらについても見解を聞いてみたい。