Rachel E. Cargle著「A Renaissance of Our Own: A Memoir & Manifesto on Reimagining」

A Renaissance of Our Own

Rachel E. Cargle著「A Renaissance of Our Own: A Memoir & Manifesto on Reimagining

ダイバーシティコンサルタントとして活動し人種差別や性差別に関係した学習ができるeラーニングプラットフォームを運営する黒人クィア女性起業家の本。

宗教的に保守的な家庭で育った著者は若くして周囲のプレッシャーに負けて「信仰深い良い相手」と結婚させられるも、自己実現の機会がない生活に耐えられず離婚、一人大都市に引っ越し、多数の兄弟姉妹がいたため子どもの世話が上手なことを利用してお金持ちの白人家庭のベビーシッターとして生活を始める。ある日テレビで見たフェミニズムについての番組でアメリカの(白人)フェミニズムの歴史を知り共感、図書館に通って学びだすも、黒人フェミニストについての記述はほとんどなく、「黒人女性ももっとがんばらないと」と考える。

トランプ大統領の就任式の翌日にかれに抗議するためにワシントンDCで開かれた「女性の行進」大集会に親しくなった白人フェミニストと一緒に参加した著者は、かつてグロリア・スタイネムが撮った写真のオマージュとして白人女性とともにプラカードを持ちながら片手を高く掲げるパフォーマンス。その写真はネットで広く拡散され、主に白人女性のフェミニストたちを中心に称賛され、ソーシャルメディアで多数のフォロワーを獲得したが、黒人女性たちからは「黒人女性を排除し無視してきた白人フェミニズムにいまだに騙されているかわいそうな同胞」的に扱われる。それまでその存在すら意識していなかった黒人フェミニストたちの批判をはじめて目にした著者は、それを契機に白人フェミニズムによる黒人への差別や排除について学びながら、大勢の白人女性がフォローしているアカウントに学んだことを次々に掲載していく。

白人女性のフォロワーが多かったこともあり、結果として数ヶ月後には「白人フェミニズムの過ちを批判する黒人フェミニスト」として大企業や一流大学に招待され、白人フェミニズムの弊害とその是正についてレクチャーすることに。長年白人フェミニズムと戦ってきたけど白人女性のあいだで彼女ほどの影響力がない黒人フェミニストはいくらでもいるのに、数ヶ月前学び始めた彼女がいきなりトップインフルエンサーになってしまうあたり、いやあソーシャルメディアの時代って怖いなあと思うのだけれど、自分に対する批判をすぐに飲み込んで学ぶ姿勢を見せることで白人女性への模範となった彼女の対応力もすごいと言えばすごい。

もともとオプラ・ウィンフリーやビヨンセのような起業家になることを夢見ていた著者は、オプラが自分の会社の下にテレビ番組製作から出版、食品その他多数の事業を抱えていることを知り、同じように自分も起業してさまざまな事業を行うことを目指す。既に行っていた講演や企業向けのダイバーシティコンサルティングに加えて、人種差別や性差別などの問題について学ぶために設立したeラーニングプラットフォームは、コロナウイルス・パンデミックによるリモートラーニングの一般化やブラック・ライヴズ・マター運動に対する社会的関心という要因に恵まれ、一気に規模を拡大する。

自分はお金が稼ぎたいのではない、自分にとって大切なことに注力したいし、同じ考えの人たちを集めてかれらにもかれら自身の夢を追って欲しい、と言っていて、個人的に起業家としての彼女を応援したい気持ちはあるのだけれど、同時にダイバーシティ産業やインフルエンサー・エコノミーの気持ち悪さと怖さをすごく感じた。読みながら何度か、え、反差別ってこんなのだったっけ?と思った。