Rachael Lennon著「Wedded Wife: A Feminist History of Marriage」
同性のパートナーと結婚して一緒に娘を育てているイギリスのダラム在住のバイセクシュアル女性の著者が、制度としての結婚の歴史についてインターセクショナルなフェミニズムの視点から語り直す本。
アメリカの第二波フェミニズムのリーダーだったグロリア・スタイネムが2000年に66歳で結婚したとき、彼女は「自分が変わったのではない、結婚が変わったのだ」と記者に語った。しかし当時はまだ同性婚が合法化される前で、伝統的な結婚制度を守れと主張する保守派にリベラル政治家も理解を示し、結婚を認めないまま婚姻に近い法的権利を与えるシビルユニオンの実現が現実的な政治目標とされていた。しかし保守派が主張する「伝統的な結婚」は実際に古来から続いてきた制度ではなく、自分たちが理想とする家族像を過去に投影したものだった。
著者はパートナーとともにより多様な人たちの視線を取り入れた歴史を新たに描き出す活動に関わっていて、本書もその手法を採用したもの。世界各地に存在した、あるいはいまも存在する多種多様な結婚や家族のあり方を紹介しつつ、階級制度が必要とし資本主義の形成に繋がる「資本集積の手段としての婚姻」がキリスト教と植民地主義に結びつき、アフリカや南北アメリカの他者や自然、さらには白人の女性たちまでを所有し支配する論理として普及させられた。
結婚は女性差別的な制度であるとしてその廃止を訴えるフェミニストもたくさんいたが、それでも著者を含め多くの人たちは結婚を希望している。しかし著者らが求めているのは結婚制度がこれまで守ってきた資本主義や植民地主義、女性差別や同性愛嫌悪への順応ではなく、個人の幸せと豊かなコミュニティをもたらすための構成単位としての家族だ。同性婚やその他の結婚をめぐるさまざまな論争(夫婦同姓、女性の改名やMrs.かMissか、移民制度や保険制度との関わり、など)は結婚制度の目的を何だと捉えるのか、という価値観をめぐる論争でもある。
歴史の部分はフェミニスト的には当たり前の話が多いのだけれど、フェミニストとしてシュラミス・ファイアストーンではなくグロリア・スタイネムが出てくるあたりから分かるようにあらためて一般読者向けに読みやすい形でまとめた本書はこれまでフェミニズムの結婚論を読んでいない人にもお勧めできそう。