Noah Feldman著「The Arab Winter: A Tragedy」

The Arab Winter

Noah Feldman著「The Arab Winter: A Tragedy

2010年にチュニジアのジャスミン革命から始まった「アラブの春」が、エジプトの軍事クーデターやシリア紛争や難民危機、ISISの台頭と崩壊を通して挫折した経緯を説明しつつ、膨大な被害を生んだとはいえ、「アラブの春」はアラブ各国の民衆が自分たちの手で自分たちの将来を決めようと立ち上がり、チュニジアという成功例も残した、歴史的に意義のある出来事だった、と力説する、テーマの割に短い本。

著者はアメリカの中東専門家で、というかラムザイヤーで有名なハーバード大学法学部の教授で、米軍が占領したイラクで新憲法を策定するのに参加した人。アラブ世界に対する部外者どころか統治に失敗してISISを生み出したクソザコ占領軍の手先だったわけで、いちいち「アラブの民衆が主体的に選んだ結果だ(だからアメリカに責任はありません)」と繰り返すのがうざいし(いちおう、イラクに対しては責任を感じてるっぽいけど)、チュニジアの人々はお互いを尊重し妥協することを選んだ、それに対しエジプトの人々は自分たちが選んだ民主政治をひっくり返したし、シリアの人々は国の将来ではなく自分の派閥の利益しか考えることができなかった、みたいに、それぞれの選択が賢かったとか愚かだったとかジャッジしているのもイヤ。いやイラクやシリアはもともとチュニジアよりずっと民族や宗派の構成や勢力図が複雑な国で、そういう国境線や支配構造を作ったのは欧米帝国主義だし、それらの国の人々が賢かったらどうにかなっていたとは思えないですけど。

とはいえ、各国のそれぞれの勢力がどのような考えで動いていたのか、とくに同じイスラム政治を掲げる勢力のあいだでもさまざまな違いがあってそれが異なる政治的選択につながっているあたりなど、勉強にはなった。別の視点からの本も読みたい。