Nina Jankowicz著「How to Be a Woman Online: Surviving Abuse and Harassment, and How to Fight Back」
国際アナリスト・ライターとして活動し、ウクライナ外務省に派遣されていた経歴もある著者が、自身のように公の場で専門家として発言する女性たちがネットをとおして経験するハラスメントの実態を紹介し、彼女が学んできた対処法を説明する短めな本。敵対的な政府による情報戦についての専門家である著者が文章を発表したりテレビに出演して発言したりするたび、彼女のもとには自称専門家の男性からのものを含めマンスプレイニング的なメッセージや性的なコメント、お前はトランス女性だろうという言いがかり(のちに触れる調査でも取り上げられているように、これは女性政治家に対してもよくあるう嫌がらせ)など、男性の同僚が経験しないさまざまな反響がある。なかには彼女が大学時代にソーシャルメディアに載せていた写真を繋いで動画にしたり、彼女の住所など個人情報を暴露する人たちも。
有名人でなくてもネットで意見を発表する女性は、男性に比べてそうした嫌がらせを受けることが多く、またその質も男性に対するものに比べて性的なものや直接的な危害に繋がりかねないものが多く、それが結果として多くの女性たちに対して公の場で発言するキャリアを避けたりソーシャルメディアの利用を控えたりする圧力となっている。そうした状況において、嫌がらせをしている人たちに嫌がらせをやめさせるのではなく女性に自衛手段を取るよう呼びかけるのは犠牲者非難にもなりかねないので慎重になるべきだけれど、実際にそうした脅威に晒されている著者が試行錯誤を経てたどりついた対処法を共有する、という形であるおかげで読みやすくなっている。ネットの個人情報ブローカーから自分の情報を削除するサービスなど一般人には手が出しにくいコストがかかるものもあるけれど、ネットリテラシーの一部として参考になる。
著者はわたしが以前ツイッターで紹介した、2020年の選挙において13人の女性政治家たちに対するネット上での嫌がらせについての調査報告の著者の一人でもあり、そこではヘイトやデマに対するモデレーションを回避しつつ攻撃するための「悪意ある創造性」を働かせた個人や右派メディア、さらにはロシアや中国などの国営メディアによる嫌がらせが多数分析されている。
また、わたしも紹介している「Culture Warlords: My Journey into the Dark Web of White Supremacy」著者で右派や白人至上主義者団体の調査報道で知られるTalia Lavin氏もその活動によりネットで激しい攻撃を受けているのだけれど、Lavin氏はその経験から同じようにネットで攻撃に晒されているジャーナリストやコメンテータのためのコミュニティを主催していて、著者もそこに誘われて救われた、と書いている。彼女たちのような有名人でなくても、同じような体験をしている人たちとお互い支えあえるような仕組みは本当に大事。