Michael J. Lee & R. Jarrod Atchison著「We Are Not One People: Secession and Separatism in American Politics Since 1776」

We Are Not One People

Michael J. Lee & R. Jarrod Atchison著「We Are Not One People: Secession and Separatism in American Politics Since 1776

米国における分離主義についての本。著者らは政治学や歴史学ではなく政治を対象としたレトリックの研究者で、歴史的な事例を網羅したり代表的なものを取り上げるというのではなく、5つの異なる種類の分離主義を例として取り上げそれらの共通点や相違点を論じている。

米国はもともとイギリス国王ジョージ3世の統治に耐えかねた植民者たちが本国から独立して生まれた国であり、国家が市民の自由を侵害するのであれば市民は国家から離脱する権利がある、という思想が国の根幹にある。奴隷制の維持・拡大を目指して米国から独立しようとした南部諸州が南北戦争で敗北していらい、一部の地域が米国から分離独立する憲法上の権利は存在しない、というコンセンサスが憲法学者たちのあいだでは成立しているとはいえ、アメリカからの分離独立を求めるレトリックは魅力を失っていない。

最初の2章は「小さな政府」を求めるリバタリアニズムの歴史および南北戦争を起こした南部の「州の権利」論について取り上げられていて、このあたりはアメリカ政治史の議論のなかではスタンダードな話。おもしろくなるのが第3章からで、第3章ではブラックナショナリズムに基づいた黒人たちによる分離独立主義、第4章では国家を指向しないレズビアン分離主義、そして5章では宗教的な迫害を受けたモルモン教徒たちが米国の支配下から逃れようとした過去の歴史について掘り下げられている。著者は二人とも白人男性である(ように見える)ことから3章と4章がどのように書かれているか不安はあったけれど、まあまあな内容。第3章ではネーション・オブ・イスラムや新アフリカ共和国の主張をきちんと説明していたし、第4章ではレズビアン分離主義の画期的な部分を説明したうえでコンバヒー・リバー・コレクティブによる批判なども取り上げていた。

モルモン教の歴史に関わる第5章は、19世紀のモルモン教会が迫害を逃れ米国政府の支配が及ばない土地に自分たちの王国を築こうとした内部の会合の記録をもとに書かれている。この記録自体、モルモン教の創設者ジョセフ・スミスが国家反逆罪に問われた際に隠匿され、2016年まで公開されなかったものらしく、ほかの章と異なりわたしが全く知らなかった内容なのでとても興味深かった。結局現在のユタ州ソルトレイクシティに本拠地を築いたモルモン教会は米国からの独立を果たすことはなかったけれども、2012年の大統領候補だったミット・ロムニー現上院議員に代表されるように多数の実業家や政治家を排出し、地元ではほぼ実権を握るなどかれらが目的としていた独自の「王国」は部分的に成立している。

最後のまとめでは、分離主義が右派・左派を問わずさまざまな民族的・社会的・文化的・政治的・宗教的その他の集団によって掲げられる普遍的な主張の一つであることを指摘したうえで、それが排他的になり他者との協調を生まないことなどを著者たちは批判しているが、「奴隷を所有する自由」を求めて分離独立を目指した南部白人と「所有されたり搾取されない自由」を求めて分離独立を唱えたブラックナショナリズムやレズビアン分離主義を「どちらも排他的」と一緒くたにするのはどうかと思う。ブラックナショナリズムやレズビアン分離主義も排他的な側面はもちろんあるけれど、問題になるのはコンバヒー・リバー・コレクティブが主張するように「分離主義は黒人女性にとって現実的ではない」といった問題であって、少なくとも白人社会や男性社会からの離脱を「排他主義」として否定されるいわれはないのでは。