Michael A. Heller & James Salzman著「Mine!: How the Hidden Rules of Ownership Control Our Lives」

Mine!

Michael A. Heller & James Salzman著「Mine!: How the Hidden Rules of Ownership Control Our Lives

所有権についての本。航空機の角度を調整できる背もたれの後ろのスペースは誰のものか?バリー・ボンズのホームランボールは誰のものか?という身近な議論から、世の中における「所有権」を説明する6つのシンプルなストーリー(先着、占有、労働など)を解き明かし、所有権は決して自然なあるいは自明なルールに基づくものではなく、法制度などによって設計されてきたものであると指摘する。そのため、大企業やお金持ちは政治に働きかけて自分たちに有利な所有権デザインを法制化するとともに、それがいかにも自然な状態であるかのようなキャンペーンを張るが、所有権の仕組みが設計に基づくことを理解すれば、社会にとってより良い結果をもたらすような設計を目指すこともできる。

たとえば裁判にもなったボンズのホームランボールの所有権。映画にもなってるらしい(町山智浩さんの紹介こちら)けど、ポポフは先着、ハヤシは占有を根拠にして裁判で争った。この本の著者は「野球場にミットを持ってボールを取ろうとするポポフの行為には他の観客をボールの直撃から守るという効用があり、ポポフが揉みくちゃにされたあとにこぼれてきたボールを拾ったハヤシに権利を与えることは今後似たような状況において観客が怪我をする危険を増やす」という考えからポポフ支持。所有権の設計を通して観客の安全を守るという考え。

同じような考え方は、環境保護や医療、格差是正などさまざまな問題にも適用でき、たとえば漁業資源の保護や温暖化対策などで一部政策として採用されている。所有権をめぐる対立が起きたときに、どちらがより正しいのかという観点ではなく、どのような設計にすることが社会に有用なのかと考えさせる。