Lise Olsen著「Code of Silence: Sexual Misconduct by Federal Judges, the Secret System That Protects Them, and the Women Who Blew the Whistle」

Code of Silence

Lise Olsen著「Code of Silence: Sexual Misconduct by Federal Judges, the Secret System That Protects Them, and the Women Who Blew the Whistle

連邦判事による裁判所職員へのセクハラや性暴力とそれに立ち向かった女性たちについての本。この本では主にテキサス州の連邦判事サミュエル・ケントと連邦第九巡回区控訴裁判所判事のアレックス・カジンスキという二人の判事が長年に渡ってセクハラや性暴力の対象としてきた女性たちが、どのようにしてそれらを生き延び、闘ってきたかが語られる。

大統領によって終身任命される連邦判事はその権限の大きさから担当する地域の法曹界に大きな影響力を持ち、判事に嫌われたら法律職でのキャリアは諦めざるを得ないほどなので、セクハラ被害を受けた女性の立場は限りなく弱い。さらに一般社会においてセクハラや性差別を禁止する法律は適用されず、警察や検察、そして同じ地域で活動する弁護士たちも、判事を敵に回すのを恐れて手を出せない。裁判所内に判事による不正を審査する制度はあるものの、告発したところでそれを審査するのは加害者の同僚の判事か、場合によっては加害者の判事本人だったりする。判事のスタッフとして働く人たちは何の職の保証もなく、判事がクビといえばクビになる立場。そのため同僚がセクハラ被害を受けていても解雇を恐れて誰も声をあげられないどころか、部屋の外にいるはずの警備員を呼ぼうと声をあげたのにいつの間にか警備員がいなくなっていた、という話も。

最終的に、ケント判事はメディアの報道をきっかけに逮捕されたあとに連邦議会によって弾劾されたあと辞任、カジンスキ判事はMeToo運動が起きたあとに10人以上の被害者の告発を受け辞任したけれど、裁判所内部の不正防止制度はついにその役割を果たすことがなかった。また、カジンスキ判事が辞任した直後、かれが後見人として可愛がってきた後輩のブレット・キャバナー判事がトランプ大統領によって最高裁判事に指名され、そのキャバナー判事も過去にかれに性暴力をふるわれたと主張する女性に告発されたけれども、キャバナー判事は性暴力の事実とともにカジンスキ判事との親密な関係性を否認した(この際キャバナーは偽証罪を犯したと指摘されている)。ケント判事やカジンスキ判事の例を「たまたま起きた例外的な事例」として片付けようとする、MeTooに対するバックラッシュもはじまっている。

わたしもセクハラについての本はいくつも読んだけど、この本で描写された連邦判事によるセクハラや性暴力行為は、それが当然の権利であるかのように堂々と行われ、責任を問われる可能性を一切想像すらしないような様子が印象的。自分が連邦判事という、裁判所の職員だけでなく警察も検察も弁護士も手を出せない権力者であることを分かっていて、それを徹底的に悪用している。MeTooを経たいま、裁判所という人権と平等がどこよりも尊重されなければいけない場所で働く人たちを守るための制度改革が望まれる。