Kinshasha Holman Conwill & Paul Gardullo編著「Make Good the Promises: Reclaiming Reconstruction and Its Legacies」
DCにあるスミソニアンの全米アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館で今月から始まった、リコンストラクションについての特別展示のコンパニオン本。リコンストラクション(再建)、すなわち南北戦争後、敗北した南部を改革し黒人の権利を守りつつ合衆国に復帰させる試みについて、わたしは最近だけでも「The Failed Promise」や「Until Justice Be Done」などを読んでいるのだけれど、この「Make Good the Promises」やそれらの本が伝える、黒人の視点を取り入れた史実の記録は、歴史学のなかでも決してスタンダードではなかった。
南北戦争が終結したのち、もともと南部出身で南部に同情的だったジョンソン大統領は倒した敵との「和解」を優先し、いったん始まったかに見えた黒人の権利を守るための取り組みは次々に反故にされていく。そのなかで南部では南軍の威厳や誇りを強調する歴史改竄運動が起こり、各地に南軍の指導者たちを称える像が設置されていったが、それに歴史学の立場からお墨付きを与えたのがコロンビア大学の歴史学者ウィリアム・ダニングだった。かれを中心とした「ダニング学派」の歴史学者たちは、リコンストラクションは北部の過激な共和党員による横暴であり、有権者となるだけの知識や知性のない黒人たちに参政権を与えた結果、無能で腐敗した政治を生み出してしまい、そのせいで失敗に終わった、と主張した。
実際にはリコンストラクションが崩壊したのは、KKKなど白人テロ組織による暴力や、連邦政府による裏切りが原因だったのは明らかで、ダニング学派の主張は当時からW.E.B. DuBoisら黒人知識人に批判されたけれど、歴史学会は批判者を無視し、公民権運動が起きるまで歴史学の定説となっただけでなく、黒人からの選挙権剥奪・投票妨害や人種隔離政策の理論的な根拠ともなった。当時から見て歴史学の見解は大きく変わったけれど、投票妨害や事実上の隔離政策などは今でも続いている。
この本は、そうしたリコンストラクションの失敗の歴史と、その後も続く暴力と抵抗の歴史を、…何人かの専門家が文章にまとめたもの。執筆者の多くが女性であり、先に挙げた2冊と比べて、とくに黒人女性の経験について深く触れられている点がいい。アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館の展示もできたら見に行きたい。わたしは数年前にこの博物館を見学したけど、その後読んだ、歴史博物館の設立に力を尽くした館長さんの本「A Fool’s Errand」もすごく良かったし、さらに興味が湧いたので、また旅行しやすくなったら行きたい。