Julian Baggini著「How to Think Like a Philosopher: Essential Principles for Clearer Thinking」

Julian Baggini著「How to Think Like a Philosopher: Essential Principles for Clearer Thinking

「哲学者のように考えるにはどうすればよいのか」というタイトルどおりの本。そもそも一般の人たちは哲学者のように考えたいと思うのか?という疑問があるわけだけど、中身は論理をきちんと組み立てる方法とかさまざまな考えに触れる利点、自分の思考を客観的に見直す大切さなど、ふつうにきちんとした考え方をするためのガイドになってる。

ただこの本には面白い点が二つあって、第一に哲学者をお手本として「考え方」を教えるような体裁を取りながら、実例として著名な哲学者がそれに失敗しておかしな意見を言ってしまっている例が豊富に紹介されていて、タイトルとの中身が違うような気もするのだけれど著者の性格が悪そうだなあと思いつつ端的におもしろい。

もう一つはもっと大事なことで、欧米に偏っているとはいえ本書がClare Mac Cumhaill & Rachael Wiseman著「Metaphysical Animals: How Four Women Brought Philosophy Back to Life」に登場したオックスフォード四人組をはじめ多数の女性哲学者たちを引用していて、実際に数えたわけではないけど言及されている哲学者の半数以上が女性なのではないかと感じたほど。女性やジェンダーをテーマとした本でもないのにこれだけ女性哲学者が引用されている本はこれまで見たことがなく、著者は確実に意図してやっているはずだけどそう断らないのがカッコいい。

ちなみに女性哲学者のなかにも「The Right to Sex: Feminism in the Twenty-First Century」の邦訳が今年『セックスする権利』として日本でも出版されたAmia Srinivasanさんのようにトランスジェンダーをめぐる論争に関連して著者の意地悪な揚げ足取りの標的となっている人もいる。まあ同時に彼女がいまイギリスで最も注目されている哲学者の一人だとも紹介しているけど。