Jack Lowery著「It Was Vulgar and It Was Beautiful: How AIDS Activists Used Art to Fight a Pandemic」

It Was Vulgar and It Was Beautiful

Jack Lowery著「It Was Vulgar and It Was Beautiful: How AIDS Activists Used Art to Fight a Pandemic

1980年代終盤から1990年代初頭にかけHIV/AIDSに関する政治的なアートを展開しACT UP及びHIV/AIDS政治運動のイメージを作ったアート集団Gran Furyについての本。有名なSILENCE=DEATHのポスターを作ったのはGran Furyではないけれど、Gran Furyの前身の一つともいえるグループ。ホモフォビアなどから来るAIDS患者への偏見を発言した政治家らの写真とその発言(石に刻み込んだ)をニュルンベルク裁判の写真を背景に設置した「Let the Record Show」やCDCによるAIDSの定義が白人ゲイ男性の症例を元にしているために多くの女性たちがAIDSに苦しんでいるのに診断が受けられない(支援も受けられない)ことに抗議しAIDSの定義変更を求める「Women Don’t Get AIDS—They Just Die from It」、輸血などによってHIV感染した「無実の人」と同性間セックスや麻薬使用などで感染した「自業自得の人」を切り分ける社会的偏見に対抗した「All People with AIDS Are Innocent」など、商業広告的なデザインとバーバラ・クルーガーのアートを参考にしたさまざまな作品が知られており、現代のアクティビズムにも影響を与え続けている。

ACT UPについてはこの1年のあいだにほかにもSarah Schulman著「Let the Record Show: A Political History of ACT UP New York, 1987-1993」やPeter Staley著「Never Silent: Act Up and My Life in Activism」が出版されていて、それぞれを読んできたわたしにとっては繰り返されるエピソードも多いのだけれど、本書では既に亡くなっている一人を除いたGran Furyの元メンバーたち全員にインタビューしており、新たに知った話もたくさんあった。「アートを通してAIDS危機を終わらせる」という目標はいまだに達成されてはいないけれど、アートと直接行動が噛み合わさることによって人々の意識を大きく揺り動かし、政府や製薬会社の行動すら変えてしまったGran Furyやその他のアクティビストやアーティストたちは本当にすごい。もちろん失敗談もたくさん含まれていて、ほとんどのメンバーが白人男性だったせいで非白人や女性に伝わるメッセージが作れなかったり、アート業界との関係をどうするかで内紛が起きたりという話もあって、それに比べるとゲリラガールズすごかったんだなと思ったり。わたしもクィアアート界隈を知らないわけじゃないんだけど、白人ゲイ男性アート界隈のエリート主義や競争主義はちょっとついていけない。ちなみにGran Furyはゲリラガールズと協力しようとして何度か会合を持ったんだけど、ゲリラガールズの人たちはその会合ですらゴリラのマスクを取ろうとせず、「誰か分からない相手と協力できない」と協力を断念したとか。

Gran Furyは自分たちのアートに権利を主張せずパブリックドメインにする方針を掲げていて、だから勝手におかしな形で商用利用されたりして「いや法的にはいいけどリスペクトはしようよ?」みたいな状況にもなっているのだけれど、その多くをgranfury.orgというウェブサイトで見ることができる。けれどそれぞれのアートについての説明が十分ではなく、どういう社会的・政治的状況においてどういう考えのもとこれらのアートが作られたのかが分からない(これはGran Furyのアートが美術館などで展示されるときにも共通の問題)ので、本書をぜひ読んだうえで鑑賞してほしい。