Gayle Jessup White著「Reclamation: Sally Hemings, Thomas Jefferson, and a Descendant’s Search for Her Family’s Lasting Legacy」

Reclamation

Gayle Jessup White著「Reclamation: Sally Hemings, Thomas Jefferson, and a Descendant’s Search for Her Family’s Lasting Legacy

米国第三代大統領トマス・ジェファーソンと、ジェファーソンの奴隷でかれが40歳だったころ14歳でかれとの子どもを生んだ黒人女性サリー・ヘミングスの家族を祖先に持つと親族に伝わる話で聞かされた著者が、人生を通して自分のルーツを探し、ついにジェファーソンおよびヘミングスとの繋がりを発見し、奴隷とされた女性とその所有者でありレイピストとも考えられる偉大な「建国の父」の子孫であることと向き合う本。

ジェファーソンが奴隷に子どもを産ませたという話は当時地元の新聞でゴシップとして報道されるなどしてよく知られていた話なのだけれど、最近になってDNA検査で事実だと確認されるまでは、ジェファーソンの歴史を伝える団体やジェファーソン研究をしている歴史学者などには否定されていた。著者はDNA検査が一般化するよりはるか以前に親戚から「あなたはジェファーソンの子孫だ」と聞かされて興味を持ち、古い資料から自分の家系を調べたりジェファーソン研究の専門家に話を聞いたりして調査を進め、ついに自分がジェファーソンの子孫であることを証明する。ジェファーソンが奴隷所有者でありレイシストであることと、奴隷とされた人たちが縋った「すべての人は平等」という歴史的文書の著者でもある矛盾を抱えつつ、自分はジェファーソンの子孫であることを誇りに思うのでも恥ずかしく思うのでもない、それはただの事実であり、白人のジェファーソン子孫たちと対等に扱われる権利がある、と主張する。

本は基本的に自叙伝の形を取っていて、著者が中流の黒人家庭で40代に入っていた両親のもとに生まれ、過保護なほど守られながら育ったことなどが書かれている。父親は郵政局の幹部でジャーナリズム学校への入学や就職に関して父親のコネが有利にはたらいたことが書かれていたり、父親と不仲だった母親が勝手に海外に住んだりしていて、著者本人はロウアーミドルだと書いているけれどかなりアッパーミドルな気がする。彼女はジェファーソンが残したプランテーションを歴史的史料館として管理するモンティチェロへの就職に憧れ、最終的に就職に成功するのだけれど、その際モンティチェロが黒人にとって厳しい職場であるという黒人女性の現職員(著者が就職したあとすぐ辞めた)の忠告を無視したり、モンティチェロのスポークスパーソンとしてパネルで発言したときにブラック・ライブズ・マター活動家にモンティチェロによるジェファーソンの美化を批判されたことを自分個人への攻撃だととらえたりしているあたりも、アッパーミドル的な態度に見える。

ジェファーソンの子孫たちはモンティチェロに埋葬してもらえたり、いろいろ特権があるみたいで、黒人のジェファーソン子孫に同じ権利が認められないのはおかしい、というのは論理的にはまあその通りなんだけれども、そもそもジェファーソンの神聖化も、奴隷を働かせていたプランテーションがその奴隷所有者を称える施設になっているのもきもちわるい。70年代にアレックス・ヘイリーの小説「ルーツ」とそれを元にしたテレビ番組がきっかけとなってアメリカの黒人たちに失われたルーツを求めて家系を調べるブームが起きたことや、それが現代のDNA検査を使ったサービスの人気につながっていること、そして著者がそれを利用して自分とジェファーソンとの繋がりを調べたことなどはおもしろいのだけれど、著者の黒人差別の歴史に対するスタンスにもやっとする。