Frye Gaillard & Cynthia Tucker著「The Southernization of America: A Story of Democracy in the Balance」

The Southernization of America

Frye Gaillard & Cynthia Tucker著「The Southernization of America: A Story of Democracy in the Balance

南部出身のジャーナリストJohn Egertonが1974年に出版した「The Americanization of Dixie」(「南部のアメリカ化」)は公民権運動の影響を受け変わりつつある南部の視点から、南部のアメリカ化への期待とそれに並行して起きつつあったアメリカ全土の南部化への不安を綴る政治エッセイ集として評判を呼んだ。本書はそれから約50年たった現在、かれを尊敬する南部のジャーナリスト二人が、あらためて南部の政治がアメリカに与えた影響を時代を追って記した、あらたな政治エッセイ集だ。

ケネディ・ジョンソン両大統領が公民権法を推進して南部の白人からの支持を失い、ニクソン大統領が「麻薬」や「犯罪」などコードワードを使ってかれらを自陣営に取り込もうとした南部戦略の展開、南部のピーナツ農家からジョージア州知事そして大統領になったカーターが示した白人と黒人が共存する新しい南部のイメージ、レーガン大統領による福祉と黒人の怠惰さを結びつけるレトリックやブッシュ41st大統領による黒人受刑者のイメージを使った宣伝など、少し現代アメリカ史について学んだことがあれば知っていて当たり前のことだけれど、あらためてそれらを「アメリカの南部化」というフレームのもとで、南部で脈々と受け継がれてきた静かな白人至上主義が全国の政治に広がる様子として理解するとしっくり来る。

より近年になると、さまざまな偶然(マケインというまともな大統領候補と足を引っ張り続けたペイリン副大統領候補、イラク戦争と経済危機で絶望的な不人気だったブッシュ43rd政権など)が重なって起きたオバマの大統領当選がアメリカの希望であれば、過去の共和党政治家たちがコードワードを使って隠れて白人至上主義者にアピールしていたのに対し、かつて1968年に人種隔離政策を主張して大統領選挙に立候補したジョージ・ウォラスいらいはじめて正面からはっきりと白人至上主義的な発言を繰り返したトランプの選挙運動は、古い南部のカルチャーの最悪の部分を代表した。いっぽう2000年代に活躍したジョージア州選出のゼル・ミラー上院議員から現在同州を代表するラファエル・ワーノックとジョン・オソフ両上院議員、そしてかれらの当選に貢献したステイシー・エイブラムス氏ら、カーター大統領が訴えた「新しい南部」を生み出そうとする勢力も受け継がれている。

それぞれのエッセイに書かれている内容はよく言われていることばかりで、特筆するようなことではないのだけれど、Egertonへの応答および続編としてこの本を位置づけることで深みが生まれている。企画の勝利。著者たちにこの本を書くよう提案した出版社ニューサウスの編集者、ぐっじょぶ。