Elizabeth Cripps著「What Climate Justice Means and Why We Should Care」
道徳哲学者である著者が「気候(変動)の正義」について考察した短い本。邦訳が出るなら「これからの『気候正義』の話をしよう」的なタイトルになりそう。「climate justice」という言葉は通常、気候変動をもたらした責任やそれによって起こされる被害の不公正な分布・分配(たとえば欧米を中心とする先進国が産業化による利益の大半を享受しておきながら、気候変動による被害は途上国に集中している、など)について取り組むためのキーワードなんだけれど、この本では哲学における正義論を通して気候変動について論じる、的な扱い。もちろん正義論のなかにはこうした不公正についての議論が含まれているので「climate justice」というフレーズが指し示す対象はきちんと扱われているし、その議論にはおおむね納得がいくのだけれど、そのフレーズが固有の意味を持っていること、そしてそれが気候変動によってもたらされた被害を集中的に経験している途上国や民族的マイノリティ、女性らの立場から不公正を告発するために使われていることを無視しているようで、もやっとする。