Claude A. Clegg III著「The Black President: Hope and Fury in the Age of Obama」

The Black President

Claude A. Clegg III著「The Black President: Hope and Fury in the Age of Obama

ノースカロライナ大学の歴史学者による、2009年から2017年までのバラック・オバマ政権についての最初の歴史書。史上初の「黒人の」米国大統領として黒人たちの圧倒的な期待と支持を浴びつつも有権者の多数を占める白人からの支持を必要としたオバマは、その政治キャリアの大部分において人種差別の問題に正面から向き合うことを避け、自分は黒人の大統領ではなく「たまたま黒人の」アメリカ合衆国大統領なのだ、という姿勢を取り続けた。貧困やその他黒人社会が経験しているさまざまな問題についての対策を問われたオバマは、そうした問題の人種格差的な側面から極力目をそらし、たとえばオバマケアと呼ばれた健康保険改革に代表されるように、人種と関係ない普遍的な政策として問題の解決を図ろうとした。

ところがオバマの出生を疑うデマや、一家が通う黒人教会の牧師の「反米的な」発言をめぐる騒動、各地で頻発する警察による黒人に対する不当な暴力や殺害とそれをきっかけとするブラック・ライブズ・マター運動の誕生など、人種をめぐる議論や騒動が次々と起こり、オバマは黒人社会の期待に応えつつ白人社会の反発を避けるための難しい綱渡りの連続を強いられた。たとえば政権発足後間もない2009年の夏に黒人のハーヴァード大学教授が自宅に入ろうとしたところ空き巣と間違われて通報され警察に逮捕された事件では、オバマが警察が「愚かな行動を取った」と発言したために一気に白人からの支持率を一割近く落とし、政権の最後までその支持を回復することはなかった。

そういうなか、2012年に自警団員に黒人青年トレイヴォン・マーティンが殺された事件で「もしわたしに息子がいれば、トレイヴォンのような外見だった」と語ったことをはじめ、政権の後半には繰り返される警察や自警団による黒人の殺害についてより踏み込んだ発言をするようになり、司法長官に任命した黒人のエリック・ホールダーとともに刑事司法改革に力を入れるようになる。その最大のものがおもに麻薬所持など非暴力的な罪状で長い刑期を課せられた受刑者に対する大統領権限に基づく恩赦・刑期削減で、任期の最後の一日となる2017年1月19日には史上最多となる330人に恩赦が与えられた。

この本では「初の黒人大統領」としてオバマが向きあった人種問題を主軸に、さまざまな内政・外交の問題にオバマ政権がどう立ち向かったのか、その背景はどうだったのかが、歴史学の手法で細かく描写される。また、オバマに対して、共和党や保守派の黒人政治家や黒人知識人たちを含むさまざまな立場の黒人たちが何を思ったのかという部分も興味深い。ほんの少し前の話だけれど、あらためて思い出しておきたいことがたくさん詰まっている本だった。