C. Pierce Salguero著「Buddhish: A Guide to the 20 Most Important Buddhist Ideas for the Curious and Skeptical」
仏教についての入門本。ブッディズムじゃなくて「ブッディッシュ」という一見ふざけたタイトルの理由は、中南米系出身でカトリックの影響を受けて生まれ育った著者自身が仏教徒を自認しておらず、読者に仏教への入信を勧めているわけでもないけれど、仏教を学んで(大学で研究するだけでなく、タイのお寺で修行もしている)深く影響を受けている、という立ち位置を示している。この本が目指すのは、アメリカにありがちなマインドフルネスや瞑想に特化し商業化された「マクマインドフルネス」ものでも、特定の教派の考えに読者を入信させようとするのでもなく、さまざまな教派の違いも含め仏教が伝える考え方をコンパクトに紹介すること。アメリカでは白人にありがちな仏教に対するロマンティックなイメージに対してアジア系アメリカ人の仏教徒たちがオリエンタリズムだという批判をしているのだけれど、そのあたりもきちんと踏まえていて文化的盗用にもきちんと言及している。著者自身の見解として、仏典にあるさまざまな超常現象については信じていないし、そもそもガウタマ・シッダールタ(釈迦)という人物が実際に存在していたかどうかも分からない、という考えなのだけれど、そのうえでそれらを信じる人たちの伝統へのリスペクトは感じられた。
仏教と現世社会との関わりについては、現世社会の変革を求めるより自分自身の向上を目指すべきだという意見があるのを紹介しつつも、現世社会での弱者救済や差別反対などの運動を行っている仏教団体もあることを指摘。著者はその1つとして創価学会を挙げていて、日本の政治において創価学会が果たしている役割を思うとちょっと疑問に感じるのだけれど、アメリカにおいて創価学会インターナショナルが黒人コミュニティに一部浸透しているのは事実。あと仏教は平和的で誰もが尊重される的なアメリカにおけるイメージに対して、MeToo運動を契機に何人もの仏教指導者の男性たちが女性に対する性暴力やセクハラで告発されたこと、女性差別が歴史的に根強いことだけでなく、ミャンマーにおけるロヒンギャ迫害における仏教ナショナリズムの中心的な役割も指摘している。タイトルを最初見たときは懐疑的だったけど、読んでみたらけっこうバランスが取れていて、仏教について基本的な知識を得たい人にはお勧めできる本。