Burton I. Kaufman著「Barack Obama: Conservative, Pragmatist, Progressive」

Barack Obama

Burton I. Kaufman著「Barack Obama: Conservative, Pragmatist, Progressive

ほかにも多数の大統領の伝記を書いている歴史学者による、バラック・オバマ大統領の新しい伝記本。タイトルにある通り、オバマの「保守主義、現実主義、進歩主義」の3つの側面を軸に置いて書かれている。オバマは理想を掲げつつも少しずつ物事を改善していく現実的な方策を取る政治家であり、その理想はある意味かなり保守的な考え方に基づいていた、的な。380ページと決して短い本ではないんだけど、オバマのようなおもしろい人生をたどった人の話を伝えるにはページ数が足りなかったのか話がすごいスピードでどんどん進んでいって、良く言えばテンポが良く、悪く言えば物足りない感じがした。オバマが闘った政策論議についても情報不足というか単純化しすぎて「これ間違いじゃね?」という部分もあった(たとえば「女性に対する暴力法」の継続をめぐる2012〜2013年の議論において、著者は「平均より高い割合で夫の暴力に苦しむ先住民女性を保護対象に含めるかどうか」が争点だったと書いているけれど、実際には先住民居住地に外から来た白人などによる性暴力に対して部族政府の管轄権が及ばず刑事責任を問えない問題を是正するかどうかが争点だった)。

著者の言うオバマの保守主義とは、既存の政治や経済の仕組みを温存したまま多様な人種や民族や宗教の人たちが平等に暮らすことが可能だというアメリカ社会に対する楽観視と、そのためには黒人たちをはじめとするマイノリティが政府の救済を待つのではなく自助努力をしなければいけないという信念だ。とくにかれは、ケニア人の父親に捨てられたと感じながら育った経歴からか、黒人男性はもっと家族やコミュニティに対する責任を果たすべきだ、ということを繰り返し主張していた。またかれの任期中に起きた警察や自警団による黒人男性の殺害を契機に広まったブラック・ライヴス・マターの運動に対しても、世の中を変えるにはデモをするのではなく組織を作って政治家と交渉したり、選挙によってより良い政治家を当選させることに集中すべきだ、と主張し、BLMアクティビストたちからは「偉そうに講釈垂れるな」と反発された。オバマが任期中に発足させ、退任後も継続しているMy Brother’s Keeperというプログラムは、若い黒人男性やその他の非白人男性たちにメンターシップを提供することでかれらが責任ある大人になることを支援するもので、実質的にBLMに対するかれなりの代案となっている。

オバマの生育歴や政治家としてのかれの成り上がり、上院議員や大統領としての成果など、知らないことはほとんど書かれていなかったのだけれど、オバマは保守主義的な理想主義者でありなおかつ現実主義者だったのだ、というこの本の主題はしっくり来た。そしてかれがそういう人物であることは大統領になるまえからはっきりしていたのに、かれの楽観的で理想を追い求めるスタンスに多くのBLM活動家やリベラル・進歩派は期待を抱いてしまい、そして失望した(そして不幸なことに、保守派の人たちはかれの本質的な保守主義を評価してあげているようには見えない)。オバマの歴史的評価が決まるのはまだ先だけれど、そのはじめになりそうな一冊だった。