Beto O’Rouke著「We’ve Got to Try: How the Fight for Voting Rights Makes Everything Else Possible」

We've Got To Try

Beto O’Rouke著「We’ve Got to Try: How the Fight for Voting Rights Makes Everything Else Possible

民主党の有力な次世代指導者の一人と目されており現在はテキサス州知事選に出馬しているベト・オルークの著書。国境の街テキサス州エルパソ出身である著者は、エルパソ及びテキサス州の歴史から人種差別や移民排斥と戦い教育や医療を拡充するために働きかけてきたたくさんの白人・黒人・ラティーノたちをインスピレーションとして紹介しつつ、現世代のアメリカ人たちにかれらに続くよう呼びかける。

そのなかでも一番有名なのはもちろんテキサス州出身のリンドン・ジョンソン大統領。かれが署名した公民権法や投票権法、さらにはメディケアとメディケイドという重要な公的健康保険制度を生み出した1965年社会保障法改正などはテキサス州だけでなく全国の人々の権利と健康を向上させたけれども、現在のテキサス州はそれらに逆行するような投票権の制限や公的健康保険の拒絶を続けている。文中ではいま行われている州知事選には触れられていないけれど、共和党の現知事や議会に対する厳しい批判。

本書でとくに詳しく経歴に触れられているのは、奴隷制を経験した世代の両親のもとに生まれ、20世紀前半にエルパソで開業していた黒人医師ローレンス・ニクソンだ。かれを含め専門職に就くなどして成功する黒人中流階層が誕生すると、州はかれらの政治的な影響を防ぐために黒人の投票を禁止する法律を制定。投票所で門前払いされたニクソンは、法律は違憲だとして二度の裁判を起こして20年間の戦いの末勝訴する。そのあいだ選挙のたびにかれは投票所に出向き、毎回投票を拒否されているのだけれど、その際「どうして無理だとわかっているのに投票しようとするのか」と聞かれてかれが答えたのが、本書のタイトルである「やってみるしかないじゃないか」という言葉だった。

また本書のエピローグでは、著者がテキサス州フォートワースで出会ったオパル・リーという人の話を紹介している。黒人である彼女の両親は1939年に白人が多く住んでいる住宅街に家を買ったのだけれど、白人暴徒が押し寄せ、警察からは一家を守るのではなく逆に自衛したら許さないと脅され、家は焼き払われた。その日はちょうど、南北戦争においてテキサス州で最後まで戦闘を継続していた南軍が最終的に投降し黒人奴隷が解放された、いまではジューンティーンスと呼ばれ黒人にとっての独立記念日として扱われている6月19日だった。彼女はこの経験からジューンティーンスが単なるお祝いの日ではなく歴史を語り継ぎ人種差別との戦いを続けるよう呼びかける大切な日だと確信し、生涯をかけてジューンティーンスを国民の休日とする運動を進めるけれども、支持はなかなか広がらない。それなのにどうして運動を続けるのか、と聞かれて彼女が答えた言葉も、「やってみるしかない」だった。そして2021年、ジョー・バイデン大統領によってジューンティーンスを国民の休日とする法案が署名される。

著者はオバマやブーティジェッジと同じタイプの、政策的には中道左派で協調性重視だけれど格調あるスピーチでインスパイアする系の政治家。妊娠中絶の禁止や教育への州政府の介入、黒人やラティーノらの投票に対する妨害、2020年大統領選挙の結果を覆そうとする試み、難民申請している人たちをバスで大量に他の州に送りつける政策など、最近のテキサスは以前にもまして醜悪なニュースが多いけれども、著者には本気で期待したい。あと表紙のデザイナーだれか紹介してあげて。