Anne P. Deprince著「Every 90 Seconds: Our Common Cause Ending Violence Against Women」

Every 90 Seconds

Anne P. Deprince著「Every 90 Seconds: Our Common Cause Ending Violence Against Women

女性に対する暴力が医療格差、教育、経済、移民問題、銃を使った暴力、刑事司法制度改革などほかのさまざまな問題とどう繋がっているか訴える本。タイトルは米国のどこかで90秒ごとにだれかが性暴力の被害を受けている、という数字を元にしたもの。

性暴力やドメスティックバイオレンスが社会のさまざまな問題にどう関係しているかという話は納得。でも本書の論調が「女性への暴力をなくすことは正しいというだけではなくならない、だから読者が大切に思っているほかの問題に関連付けることで、女性への暴力をなくす動機にしたい」という考え方に貫かれていて、読者が女性への暴力をなくすこと自体を大切に思っていることが想定されていないようなのが謎。女性への暴力をなくすためにはこういった他の問題についても取り組むべきだ、という本だと思っていたら逆だった。

わたしが本書で一番おもしろいと思ったのは、学校での銃乱射事件について語った部分。生徒によって学校に銃が持ち込まれてほかの生徒や教員らが殺される事件が起きていることをうけて、学校に金属探知機を設置して銃を持ち込めなくしたり、銃撃が起きたときにどうバリケードを組んで避難するかという訓練をする学校もあるなか、著者は性暴力やデートDV予防プログラムのなかで行われているような、ジェンダーをめぐる話し合いが有効だと主張する。事件を起こすのは男子生徒で、男はこうあるべきだという男性ジェンダー規範を満たせなかった生徒が過剰補償の一環として銃に手を出したり、自分を苦しめた(と本人が思っている)ほかの生徒、とくに自分になびかない女子生徒を標的とすることが多い。そうしたジェンダー規範から男子生徒を解放することは、性暴力やデートDVとともに銃乱射事件を予防することになるのではないか、という主張には納得がいった。