Anita Hill著「Believing: Our Thirty-Year Journey to End Gender Violence」

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Anita Hill著「Believing: Our Thirty-Year Journey to End Gender Violence

1991年に最高裁判事に指名されたクレランス・トマスの承認審議でトマスによる長期に及ぶセクハラを証言した黒人女性法学者アニタ・ヒルの新著。共和・民主両党の男性政治家たちによって事実究明が打ち切られトマスが最高裁判事になってから30年間に及ぶ、ジェンダー暴力を無くすための「彼女の」ではなく「わたしたちの」闘いをテーマに、小学校でのいじめから大学での性暴力、さまざまな職場におけるセクハラ、家庭内におけるドメスティック・バイオレンスなど、広い範囲で起きる身近な暴力について扱っている。そのなかで彼女は、司法や政治がサバイバーを支援するのではなく沈黙させるために機能していることや、ビル・クリントンの多数のセクハラ・性暴力疑惑に対してリベラルが対応を誤ったことなおdも厳しく指摘。

多数の女性に性暴力加害者として名指しされ、本人も性暴力行為を自慢するような言動を取るトランプが大統領になったことをきっかけにウーメンズ・マーチなどジェンダー暴力を批判する運動が立ち上がり、さらにハリウッドの有名人らの告発によりMeToo運動が盛り上がりを見せるなか、2018年に最高裁判事に指名されたブレット・カヴァナーの承認公聴会はトマス公聴会からどれだけアメリカ社会が変化したか示す場になるはずだった。ところがカヴァナー判事による性暴力を告発したクリスティン・ブラジ・フォード氏の証言はヒル氏の証言と同じように無視され、真相究明に繋がることはなかった。

また2020年には、30年前に上院司法委員長としてトマス判事の承認審議を取り仕切り、ヒル氏の証言を補強する複数の証人の発言を認めないまま公聴会を打ち切ったジョー・バイデン議員が、かれ自身タラ・リードという元アシスタントの女性による性暴力被害の告発を受けながらも民主党の予備選を勝ち抜き、大統領に当選した。ヒル氏は結局バイデンに投票したものの、かれの政策におけるジェンダー暴力の扱いがほかのさまざまな問題に比べて小さいことを指摘し、さらなる取り組みを主張する。

トマスとカヴァナーというこの30年間を象徴する二人の最高裁判事候補の公聴会では、被害を受けた女性による告発は許されたものの、ほかの証人や状況証拠を取り上げることはなく、「男女の言い分の行き違い」以上のものとしては扱われなかった。しかし実際に当時男性議員たちがヒル氏にたいして投げかけた言葉は、現在の議員たちがフォード氏に投げかけた言葉よりはるかに悪質だったように思う(政治家ではない右翼コメンテータは同じようなコメントをフォード氏にも向けていた)。ジェンダー暴力はいまだ無くならないし、被害者に対する攻撃も続いているけれども、この30年でそれらに対抗する勢力は確実に力をつけてきている。30年前から戦ってきたアニタ・ヒルさんに、そしてその他の多くの女性やその他の人たちに、深く感謝しつつ共に戦っていきたい。