Alexa Hagerty著「Still Life with Bones: Genocide, Forensics, and What Remains」

Still Life With Bones

Alexa Hagerty著「Still Life with Bones: Genocide, Forensics, and What Remains

グアテマラやアルゼンチンの内戦における戦争犯罪や政府による市民虐殺など深刻な人権侵害の現場から犠牲となった人たちの骨を掘り起こし遺族に届ける活動に関わってきた法人類学者の本。

世界中の戦争犯罪や虐殺の現場から、穴の中に埋められたり井戸に放り込まれた多数の犠牲者たちの遺体が発見されている。著者は南米のそうした現場で遺骨の発掘と科学的調査による身元の特定に関わり、遺族に送り届けるとともにかれらのコミュニティが悲劇に幕を下ろす手助けをしている。そうした活動について何の予備知識もないわたしは、はじめ科学的調査により謎を解き明かすサイエンティスト、的な活躍を漠然と思い描いていたのだけれど、この本を読んでその浅はかさに気づいた。そこで本当に起きているのは、過去の悲劇に遺族やコミュニティが向き合い、受け入れがたいながらも受け入れ、先に進むために必要な地道な手助けだ。

もちろんテクノロジーの進歩はある。たとえば本書によると、2001年の同時多発テロ事件の被害にあったニューヨークのツインタワー跡地には多数の身元不明の遺体が残されたが、それらの身元調査は現在も続けられていて、過去20年のあいだの技術の進歩によって新たに身元が判明する遺骨もある。しかしほとんどの現場においては最新の技術を使って同じ遺骨を何度も検査するほどの余裕はなく、行われているのはその時点で可能な手法によってできるだけ多くの遺体を遺族に届けようとする賢明で地道な活動だ。そうした活動は、虐殺の不当さを再確認し、遺族の癒やしに貢献するだけでなく、犠牲となった人たちの尊厳を回復するための行為でもある。

戦争犯罪や独裁政権による人権侵害の歴史とともに犠牲者としてその歴史に埋もれてきた人たちをふたたびコミュニティに迎え入れ悲劇を語り継ぐための専門家たちの地道な活動はほんとうに大切だし尊敬する。