Ai Weiwei著「1000 Years of Joys and Sorrows: The story of two lives, one nation, and a century of art under tyranny」
中国を代表する現代芸術家にして自由を求める社会運動家、アイ・ウェイウェイ(艾未未)の自叙伝。タイトルに「two lives」とあるのは、かれの父親であり有名な詩人だったアイ・チン(艾青)の生い立ちからフランス留学時代の話や、中国共産党により幼かったウェイウェイを連れて新疆ウイグル自治区の労働改造所に追放された際の経験などの話を含めていて、父と子(とさらに孫)のストーリーになっているから。ウェイウェイ自身もブログや動画、ソーシャルメディアを使った活動を通して共産党政権における不自由や情報隠蔽を批判したことで2011年に政府によって監禁され、アーティストや人権活動家たちを中心に世界中から支援の声があがった。
子どもの視点から見た文化大革命当時の経験を経て、アメリカに滞在してギンズバーグ、ウォーホル、ソンタグら当時の有名なアーティストや知識人たちと交流して帰国した著者が中国でも新進気鋭の現代芸術家たちとともに活動するなか、政府からちょくちょく尋問されたり監視されたりするようになる。もちろん自分の自由に対する侵害であり不快なんだけれども、自分の立場をかつて迫害された父に重ね、それも経験してみたいという好奇心すらあった様子。しかし実際に勾留され、弁護士に面会する権利も認められず自分が生きているかどうかも世間に伝えられない状態に陥ると、父親があえて語ってこなかったトラウマの深さに改めて気づく。著者がこの本を書いた動機は、その同じ経験を自分の息子にもさせないために、自分の経験を語るべきだと考えたからだという。
本を通して、勾留されているなかでも看守とさまざまな話をして、そのなかで立場は違えどお互いの人間性を確認し合う様子や、アートを通して奇跡のような出会いが起き、中国のような全体主義国家では起こるはずがないようなことが起きる様子が書かれていて、アートと社会運動の繋がりに関心を持つ自分にとってとても興味深かった。また2015年に国外渡航を許されて以来ドイツやポルトガルをベースに活動している著者は、シリア内紛で起きた難民危機などにも関心を向け、自由や安全を奪われた世界中の人たちの側に立ったアートを作り続けている。
著者が若い頃ニューヨークに滞在していた際、平和運動やACT-UPによるデモに参加して、警察によるデモ隊への暴力を目撃しその写真を撮ったという話が出てくる。その際の警察による公式発表は、かれが目撃した警察による暴力とは相容れないものだった。中国のような一党独裁国家に比べるとアメリカは自由であるように見えるけれど、かれが描写する中国の国家機関による自由の抑圧や情報隠蔽はわたしが社会運動家としてアメリカで見聞きしている状況とそれほど違わない。それに抵抗する権利がどれだけ認められているか、という点においては大きく異ると思うけれども、権利がなくても中国やその他の非民主的な国のアーティストや人権活動家は抵抗を続けている。まだ世界に知られていないたくさんのアイ・ウェイウェイたちの活動を知り、連帯したいと思った。