Kathleen Hanna著「Rebel Girl: My Life as a Feminist Punk」

Rebel Girl

Kathleen Hanna著「Rebel Girl: My Life as a Feminist Punk

ライオット・ガールの代表的なアーティストでBikini KillやLe Tigreなどのバンドのヴォーカリストによる自叙伝。

父親による家庭内暴力や性虐待を経験し、女子だからと文章やアートを低く評価され、元ボーイフレンドには勝手に私的なヌード写真を展示されるなど、さまざまな理不尽を感じていたところドメスティック・バイオレンスや性暴力の被害を受けた女性を支援する活動に関わることからフェミニズムに出会い、憧れていたキャシー・アッカーに勧められてバンドをはじめた経緯や、ライオット・ガールのはじまりと突如メディアに追いまわされただけでなく運動のコントロールを失ってしまいジョーン・ジェットとのコラボで「セルアウト」だと叩かれるようになった話、ストリッパーの仕事とフェミニスト活動家としての整合性を問われたり反売買春フェミニストとセックス・ポジティヴフェミニストの双方になじめなかった話、Nirvanaの「Smells Like Teen Spirit」の曲名を生み出したカート・コベインとの交友、メディアに「キャットファイト」と面白おかしく騒がれたコートニー・ラヴとの喧嘩(著者の言い分によればラヴによる一方的な暴力とのことだけど)、といったライオット・ガール時代の話はもちろん、その後現在に至るまでのさまざまな時期について書かれている。いくつかの代表的な曲が生まれた背景についてこれまでより詳しく書かれているのも良い。

ライオット・ガールの集会で反レイシズムのワークショップを開いたところ、参加していた白人女性たちが一斉に「自分は女性だから白人特権なんてない」「なんで昔の人がやったことの責任を問われなくちゃいけないのか」と言い出して、いちおうフェミニズムを経て人種差別についての基礎的なことは抑えており当然ほかの子たちもそうだと思っていた著者は見込み違いを挽回できずにライオット・ガールを非白人の女性にとっては居づらい場所にしてしまった、ライオット・ガールのリーダーと目されている白人女性の自分がもっと積極的に対処すべきだった、と反省を書いている。また、ギニア人移民男性アマドゥ・ディアロ氏が警察に41発の弾丸を打ち込まれた殺害された事件への抗議の意味を込めて作られたLe Tigreの「Bang! Bang!」という曲では終盤で「1! 2! 3! 4!」と41までカウントする部分が音源ではパワフルなのだけれどライヴ会場では会場の大部分を占める白人たちが一斉に「1! 2! 3! 4!」と叫ぶのが恐ろしいという非白人たちの苦情を受けてライヴで演奏するのはやめたと書いているけれど、この曲はそこ以外でも警察による黒人への暴力に抗議する文面のなかに唐突に父親による性暴力をフラッシュバックする内容が盛り込まれていて、サバイバーの表現としては分かるしすごいと思うのだけれどやはり警察による黒人に対する暴力についての歌の中に「父親を殺したい」と盛り込むのはどうかいう問題があり、ここには触れられていない。

非白人の女性たちによる批判については自分が学ぶきっかけになっただけでなくパンクに期待を抱ける要因にもなったので「感謝している」と書く一方で、自分がライオット・ガールの運動を通してトラウマを経験した若い女性たちに怒りを表現することを勧めたせいで理不尽な怒りや攻撃がリーダーと目された自分にも降り掛かり、ライオット・ガールの名のもとに抗議声明を出されたりボイコットされたりしたことについては、トラウマが原因であるとして一定の理解は示しつつ、ファストフード的な政治に流れてしまっていると批判している。「Bang! Bang!」と同じEPに収録された「Get Off the Internet」や「Yr Critique」は彼女に対するさまざまな批判をネットのくだらない戯言として跳ね除ける内容の曲なのだけれど、これらの曲が発表されたのはちょうどLe Tigreがトランス女性を排除するミシガン女性音楽祭で演奏したことで批判された時期。ネット上だけのいわれのない言いがかりと当時のフェミニズム周辺で広まっていたトランスミソジニー加担への批判を一緒くたにしているように見える。ちなみに本書ではミシガン女性音楽祭の話は一切出てこない。

まあ彼女の半生については自身がこれまでに書いたりインタビューに答えたりしたもので既によく知られているし、過去にドキュメンタリ映画も作られているので、いくつかの身内のトラブルについて今の視点から振り返る部分や、ライム病で苦しんだ経験についての記述が興味深かった。もちろん彼女のことを良く知らないけどライオット・ガール運動に興味がある人は全体的に面白く読めると思う。