Jack Turban著「Free to Be: Understanding Kids & Gender Identity」

Free to Be

Jack Turban著「Free to Be: Understanding Kids & Gender Identity

子どもと未成年のジェンダー医療の専門家としてメディアで発言することが多い精神科医が子どもの性自認と医療的オプションについて解説する本。未成年のジェンダー医療についてあれこれ言う前にとりあえず押さえておくべき点がきちんと説明されている。

序盤の性自認やトランスジェンダーについての解説をする部分では、世界のさまざまな文化やインターセックス・性分化疾患・DSDについての表層的な扱いもあって「あーこれあかんやつやー」と思ったのだけれど、著者の専門である子どもや未成年の性自認やトランスジェンダーについての話題になるとめっちゃシャープに。古い研究の誤解釈に基づく「子ども時代の性別違和は大人になると解消される」という説への反論や、それまで普通の女の子だったのに突然トランス男性だと言い出す「急速発症性性別違和」という概念が科学的事実に反することなど、これまでそうした論争について詳しく知らなかった人にも分かりやすく具体的な根拠をあげて書かれている。

専門家が子どもをトランスジェンダーに仕立て上げようとしているとか、早い段階で手術をしようとしているというデマや陰謀論が広められているが、実際にはそんな事実はないし、未成年で性別再判定手術を行うことはほとんどない。例外的に、すでにホルモンブロッカーを長いあいだ使用しており望む性別で何年も生活してい周囲に溶け込んでいる17歳の子が、9月に大学をはじめる前の夏休みのあいだに手術しておきたい、というケースなどで手術という選択肢が考えられることもあるようだが、そこまで理解がありなおかつ手術費が払える親を持つトランスジェンダーの子どもなんて全体の1%もいない。それより親や州法により大人になるまでなんの医療措置も受けられない子どものほうが圧倒的に多い。

このところ、いろいろな州で未成年に対するトランスジェンダー医療を禁止したり厳しく規制する法律ができているけど、ぶっちゃけた話、それによって直接医療アクセスを奪われる子どもはそれほど多くない。なぜならそもそも、法律さえなければそうした医療にアクセスできるトランスジェンダーの子どもがごく例外だから。同様に、トランスジェンダーの子どもをスポーツから排除する法律も各地で制定されているけど、大多数のトランスジェンダーの子どもたちは堂々とカミングアウトして学校でスポーツに参加するどころではなく、自分を隠して生きる辛さから自殺を考えていたり、いじめや周囲の無理解に苦しんでいたり、親から家を追い出されたり親の虐待に耐えかねて家でしたりするほうが普通。それでもそうした法律は、そうした子どもたちに「あなたは社会に望まれていない」というメッセージを強く発し、そうした子どもたちをさらに苦しめる。

トランスジェンダー医療について議論をするなら、せめてこの本に書かれているような事実を踏まえたうえでお願いしたい。