Deborah Tuerkheimer著「Credible: Why We Doubt Accusers and Protect Abusers」
どうして性暴力やセクハラの告発は疑われるのか、加害者として名指しされた人の弁明は信用されるのか、そのメカニズムを解明する本。「それは本当に起きたのか」「起きたとして、それは不当なのか」「不当だったとして、それは気にかけるほどのものなのか」の3つのそれぞれの段階において被害者の告発は疑われ、加害者の弁明が信用される、信憑性のディスカウントとインフレーションにかかわる、女性に不利な性役割や性規範、人種差別や性差別などによる偏見、性暴力やセクハラについての間違った思い込み、「完璧な被害者」と「凶悪な加害者」という現実にそぐわない対立構図、トラウマに対する無理解、法的な取り決め及び刑事法的な基準の過剰適用、そして人間の心理的ヒューリスティックについて、現実の事例を絡めつつ解説していく。
これらの要因の多くは性暴力やトラウマに関する正しい理解を広めたり、より公平な職場や学校などでのルールやプロセスを作ることで対抗できるし、現状維持バイアスや損失回避・公正世界仮説など心理的ヒューリスティックに基づくものについてもその存在を意識することで対処できる可能性がある。性暴力やセクハラの訴えが否定されるのは決して必然ではなく、加害者に有利なように作られた社会環境は変えられる、と力強く主張している。その第一歩は、被害を訴える人たちを孤立させず支えることだ。
サバイバーが信用されない理由が実例をまじえつつこれでもかと説明されるので、タイミングによっては(全体としてはサバイバーの経験を肯定する内容だけど、部分部分は)辛い読み物になる可能性もあるのでサバイバーは要注意。