Sasha Geffen著「Glitter Up the Dark: How Pop Music Broke the Binary 」

Glitter Up the Dark

Sasha Geffen著「Glitter Up the Dark: How Pop Music Broke the Binary

第二次大戦後のポップミュージックが性別二元制にどう抗ってきたかについての本。著者はノンバイナリーな音楽ライター。黒人女性グループの楽曲を好んでカバーしてそのスタイルを模倣したビートルズからはじまり、グラムロックやプリンス、マイケル・ジャクソンなど分かりやすくジェンダー規範を揺るがした音楽だけでなく、パンク、ヒップホップ、ハウスなどさまざまなジャンルからたくさんの事例が紹介されていて、章ごとにプレイリストを作ってほしいくらい。知ってるアーティストや曲だけでなく、ちょっとだけ見聞きしたけど深く知らなかったものもふくめ、知らなかったアーティストや曲にも興味が湧き、いくつかはミュージックビデオを探した。

性別二元論と言ってもここで言われているのはアメリカ主流社会におけるそれで、すなわち白人中流社会のジェンダー制度のこと。たとえば黒人男性の男性性は攻撃的で危険というステレオタイプとともに、過剰に性的という意味から逆に「女性的」とされることもあり、黒人男性ロックミュージシャンを模倣したエルヴィス・プレスリーは初期には一部の非評価から「女々しい」と非難されていたらしいのは、いまではエルヴィスに(性的ではあっても)男らしいイメージしかなかった自分にとっては新鮮だった。序盤は白人男性ロックミュージシャンが既存の秩序を破壊するなかでジェンダー規範を超越したみたいな例が多かったのだけれど、章が進むごとに白人男性の「女性的」あるいは中性的パフォーマンスだけでなく、女性やトランスジェンダーや黒人アーティストのジェンダーを超えたパフォーマンスもきちんと扱われていて(レズビアンフォークミュージックやライオット・ガールの話もあった!)良かった。