Jan-Werner Müller著「Democracy Rules」

Democracy Rules

Jan-Werner Müller著「Democracy Rules

アメリカで2021年1月に起きた連邦議事堂襲撃事件や多くの国で強権的な指導者がメディアの支配を通して権力を集中させるなど民主主義の危機が叫ばれるなか、民主主義を守るとは具体的にどういうことなのか考察する本。

表紙には「1 自由」「2 平等」という民主主義の根幹にとっておなじみの概念に加え、「3 不確定性」という言葉が。著者によれば民主主義というのはある政体を運営するうえで必ず生じる不確定性を制度的に飼いならすためのものであり、勝者がいつまでも勝者ではなく、敗者にも次の機会には勝つ可能性が残されることが必須。政権交代が可能であるためには、人々が考えや支持政党を変える可能性が常に開かれている必要があり、どんな人でも政治への参加自体を拒まれず、また意見を変える余地のある主体とみなされる必要がある。

ヒラリー・クリントンは2016年の選挙においてトランプの差別的な発言を容認する熱狂的なトランプ支持者たちのことを「basket of deplorables」(ろくでもない連中)と呼んで批判を浴びたが、著者の考えではクリントンの過ちはかれらを「ろくでもない」と表現したことではない。かれらは事実、ろくでもない候補のろくでもない発言に熱狂していた、ろくでもない連中だった。それより著者が問題視するのは、かれらを「ろくでもない連中」として切り捨てることで、かれらへのアプローチを放棄し、かれらが意見を変える可能性を見放したことだ。民主主義の基礎である社会構成員の平等を脅かす思想は排除されるべきだが、それはそうした思想を持つ人たちを切り捨てることとは異なる。

本書は「民主主義を守る」という基準からどこまでの思想や主張が許容できるのか、そして人々の意見に影響を与えるだけでなくそもそも何が政治的課題なのかを規定するはたらきを持つメディアや政党は民主主義のインフラストラクチャーとしてどうあるべきなのか、といった問題に答えを出そうとしている。